福島県飯坂町の温泉街裏山の摺上川左岸に、「鼻毛(はなげ)」という地名がある。「はなげ」は「端(はな)」の「崩(くえ)」を意味しており、突き出た崖地はまさに「鼻毛」地名の典型的な地形である。鼻に見える「鼻石(はなヶいし)」のあることから群馬県前橋市には鼻毛石という地名がある。現地は赤城山の南山麓斜面を下る荒砥川と神沢川に挟まれた場所にある。赤城山の山麓斜面は案外急なところもあり、部分的には谷の切れ込んだ地形があった。果たして、一介の石の存在が、地名(字名)にまでなって残っているとしたら、失礼ながらこのへんてこな地名に対して地域の人の思い入れようが強いのだろう。宮城県仙台市泉区の鼻毛は、七北田川の右岸にあり、突き出たような河岸段丘の段丘崖を意識した地名だ。新潟県上越市大島区には、海抜600m近くの高地に「鼻毛の池」という池があり、その付近には「鼻毛峠」がある。やはり崩れやすい地形名だろう。 岐阜市尻毛(しっけ)は、上尻毛と下尻毛に分かれている。下尻毛にはご丁寧に「下尻毛下組公民館」がある。付近は、伊自良川の氾濫源であり、「しっけ」は湿地の意味だ。なお、尻毛の直ぐ西には「又丸(またまる)」という地名がある。品のない地名のついでに、大分県宇佐市の山間には、安心院町下毛(しもげ)がある。いずれにしても「け」に「毛」の字を使いたがるのは日本人の性なのだろうか。 左《前橋市鼻毛石》